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古文
●出典

まつかげちゅうごんものがたり

松陰中納言物語』は、南北朝時代に成立したのではないかという説もあるが、成立年代については特定されていない。作者についても同様である。

体裁は、源氏物語』を中心とした平安時代から、鎌倉、室町と流れていく擬古) 物語と同様であり、主人公松陰」のへの貴種流離たんのほか、ままいじめ譚、じゅすい譚と、それまでの物語の様々な要素を反映している。

●本文解説

本文は、物語全体のほぼ冒頭部にあたり、松陰中納言に降嫁されたとうないを恋慕していた人物が、腹いせに松陰中納言を陥れようとする部分である。計略としては、本文中にも登場する侍従を使って、松陰中納言がれいけい殿でんの女御松陰中納言の故北の方の姉)にてて書いたように見せかけた偽の恋文を届けさせ、麗景殿の女御とみかどの怒りを買わせようとしたのである。本文はそれに続く部分である。主語の省略が多いため、丁寧に直訳をしながら主語と文脈を把握していく必要がある。

なお、この場面では、松陰中納言は既に大納言に昇進しているが、呼び名として松陰中納言」とした。

★人物紹介
  • 松陰中納言⋯主人公。
  • 麗景殿の女御⋯松陰中納言の故北の方の姉。松陰中納言をよく思っていない。
  • ⋯松陰中納言を信頼していた。
  • 中将⋯松陰中納言と故北の方の間の子。
  • 藤の内侍⋯松陰中納言の今の北の方。
●設問解説
問一

解答

取り組み結果

敬語の理解についての設問。正解は

今回の問題は、だれに対する敬意かが問われているので、敬語の種類を見分けることが重要となる。敬語は種類によって敬意の対象が違う。

  • 尊敬語=動作のに対する敬意
  • 謙譲語=動作の受け手への敬意
  • 丁寧語=読み手聞き手への敬意

まず敬語の種類を確認すると、(ア)まゐらす」は謙譲語、(イ)さぶらふ」は丁寧語、(ウ)奉る」は謙譲語、(エ)たまふ」は尊敬語である。

次に、それぞれを見ていくと、(ア)は直前にとどめ」とあるので、止め」られる相手、松陰中納言」への敬意である。(イ)は聞き手、ここでは松陰中納言」への敬意。(ウ)入れ」られる相手、松陰中納言」への敬意。(エ)に」のに」が格助詞間接的主語の用法〜が」〜におかれては」)なので主語は主上」。そこから考えてせ」は尊敬の助動詞せ給ひ」で最高敬語)と判断できる。よって、ここでの動作の為手は主上」である。正解は

●現代語訳

このようなこととは少しもご存じでなく、れいけい殿でんの)女御がお召しになるので、松陰中納言は)近ごろのしっのお気持ちも、いくらかお晴らしになったのであろうかと、夕暮れの時分にお越しになる。もんの陣に、お車をお止めになって、麗景殿にお入りになったのを、どのような理由とも分かっておりませんが、お留め申し上げよとの、ご命令でございます。」と言って、使が大勢松陰中納言の)お手を取って、左衛門の陣にお入れ申し上げる。みかどはお聞きになって、信じていた松陰中納言に裏切られたと思って)ご様子は大変しょげ返りなさって、流刑地を決めるようにとの、ご命令がある。

松陰中納言は)中将に少しもお知らせになることができないことであったので、そのころ中将は)まがきの菊に映える夕日の光から月の光に変わり)、月の光に染まり濃く映える紅葉の色に、人の)物思いというものの深いことと、浅さということとを思い比べていらっしゃったところ、そこに)お供の人々が戻ってきて、こういうようなことでございます)。」と言って、すがりつくので、その場にいたすべての人が集まって泣き騒ぐ。中将も)私も、同じ罪でございましょうから、参上してお会い申し上げることを、急がなければ。弟君たちの行く末が、気がかりでございます。親しい者は皆、東国におりますので、あなたとうない〉よりほか頼りになる)人はいなかったのです)。」と言って、涙にれた)そでを絞りなさると、藤の内侍は)侍従までも、今朝から出たまま帰らないのです)。加えて、あなたまで)幼いお子たちを残しなさって、どうして出立なさろうとしなさるのです)か。」と言って、お袖をとらえ行かせないように)なさろうとするが、中将は)夜が更けるといけないから)。」と言って、ご出立なさる。お慕いなさる弟君たちの)お声の方を振り返ってご覧になると、傾く月の光がかすかに松のこずえに映っているのをご覧になって、次の和歌を詠んだ)、

慣れ親しんだわが宿の梢に、これが最後かと見ると、月が澄んだ光を放っている、そのように)月が主人となって住むように、この家も別の人の住まい)に変わるのだろうか。

中将は)宮中に伺候なさって、頭中将に罪はどのようなことなのでしょう)か。私も松陰中納言の)いらっしゃるはずの所へ連れて行ってください。」とおっしゃると、頭中将は)罪があるようなこととも思わないのですが、帝が)このようにお定めになったのですから、あれこれとお取りはからい申し上げたりするようなのも、軽率な行いだと思って過ごしているのです。夜が明けたならば、松陰中納言は、流刑地の)島にきっと赴きなさるでしょう。当然対面もさせてあげたいけれども、私でさえ思うとおりにはいかないのでございます。せめて)私の宿直所においでになって、お手紙でも差し上げなさってください。」と、お勧めになる。中将の)思いのほどを表す言葉は、中途半端でしかなく歌にして)、

涙川につらい瀬はあるというが、逆に浮かぶ瀬もあるというのだから)水の泡=汚名〉が消えて水が澄むように、その罪が消えて、もとのようにみぎわ近い屋敷=松陰邸〉に住みたいものです。

松陰中納言は)お手紙をご覧になると、いっそう涙をお止めになることができない。もしも、これが)今生の別れと知っていたならば、来世に託してまた来世でも一緒だと)互いに約束しておいたろうのに、これほどに浅い宿縁であるなら、いったいどうして縁を結んでしまったのだろう、まだまだ幼いお子たちの将来はどうなってしまうのか)などと、松陰中納言は)思いめぐらしておいでになり、お涙に沈んでいらっしゃるので、ご返事を催促申し上げると、お手紙を裏返しにして、

明日のことすら分からない情けない)私なのでしょう。だから)つらい涙の川に、私と同じように、あなたも)沈まないでくれたらなあ。

に残す人)への松陰中納言の)惜別の思いは、なくなりなさる筋のものでもなかったので、千の夜を一晩に凝縮)したとしても、明けていく空の情景)はさぞかし)恨めしいことだろう。

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