パソコンでの閲覧では一部レイアウトが崩れる場合があります。スマートフォン・タブレットでご覧いただくことを推奨しております。

問題

  • 1

中断

レベル3

STEP4

古文

  • 30
  • センター試験対策
  • 個別大試験対策
  • 記述

問題

次の文章は、えいものがたり』の一節である。愛する夫のいちじょう天皇を病気で失った中宮は母りんのいるたかつかさ殿どのへ退出し、生きる希望も失い、悲しみに暮れていた。これを読んで、後の問いに答えよ。
60

その年、(注1)がさ夏よりでて、人々わづらひけるに、中宮、はじめのたび、さも(ⅰ)おはしまさざりけるに、さやうの御しきおはしましける悩ましさにことづけ(ⅱ)させ給ひて、九月三日のほどに尼になら(ⅲ)せ給ひぬ。さるべきこととは(ⅳ)おぼしめしながら、さしあたりては、鷹司殿のうへも、さぶらふ人々もいみじと見(Ⅴ)たてまつり思したり。いとめでたきぐしてたてまつりつれば、ことひとにおはしますも、いみじうあはれなることなり。

九月六日失せさせ給ひぬれば、言ひやらんかたなくいみじ(注2)宮々のをさなき御心地どもにも思しまどひ、恋ひまうさせ給へる、いみじうあはれなり。女房、こゑしまず泣きまどひたる、言ふべき方なし。もの思ふとても、かく(注3)心にまかせたるやうなることはかたきものを、いとあさましくあはれなり。

(注4)宮たちのゐんに渡らせ給ひしほどはただ今のことぞかし。例ならず起きさせ給ひて見たてまつらせ給ひし御ありさまの、涙にひぢて明かし暮らさせ給ひて、ひきつくろはせ給ふこともなかりしかど、御髪のきよらに、つゆもまよはせ給はず、おほかたも重りかにはづかしげなりし御さまになんおはしましける。

よろづに思ひ出でまゐらすること多くて、女房たち思ひまどふ中にも、(注5)いではのべんは死ぬべしと、人々いとほしがる。(注6)簾すこしまゐりてものまゐる。御まかなひはみやうぶの君。もんのないじゆうの内侍、出羽弁などやうの人々取りてまゐる。ただにおはしまいしをり、さやうのこと仕うまつりし人々よりは、立ちまさりたる人して仕うまつらせ給ふ。

殿はもらせ給はず、(注7)だいじやうけいなどの事おこなはせ給へば、日ごろ過ぎ、のどやかなるしも、もののあはれなることはまさりゆく。ものおぼゆるいかにせん」とは、まことにぞ。にようゐん、いみじうあはれなることをいとど思しめし、わが命長きこそ恥づかしけれ。A宮は心にまかせたるやうにこそものし給ひけれ。かく立ちおくれたてまつりて、一日にてもあらんと思ひけんや」と思しのたまはす。

かくて、鷹司殿には、ころさへいみじうあはれに、秋のくれつ方、あるを見るだに」と、吹く風も身にしみてあはれなり。せんざいもやうやう枯れ枯れになり、虫のも弱りゆき、かりの連れて渡るも驚かれ、(注8)しちでうきさいのみやの失せ給へるをりに、荒れのみまさる」と(注9)が言ひたるほどの心地も、かばかりやありけん。

注) 1裳瘡 ── てんねんとう。後のはじめのたび」とはその流行の初期を指す。 2宮々 ── 威子の娘である、しょう内親王とけい内親王。 3心にまかせたるやうなることは難きものを ── 望み通りになるようなことはなかなか実現しがたいものであるのに。 4宮たちの院に渡らせ給ひしほど ── 八月末、威子の娘たちがしょう女院)のもとを訪れた折に母の威子に会ったことを指す。 5出羽弁 ── 中宮づきであった女房の名。命婦君」や左衛門内侍、侍従内侍」も同じ。 6母屋 ── 寝殿造りの中央の区画。威子のなきがらが安置されている。 7大嘗会、御禊 ── 新天皇即位に伴う朝廷の儀式。頼通は、妹の威子が病床にある間もこの儀式を執り行っていた。 8七条の后宮 ── 宇多天皇女御温子。 9伊勢 ── 温子に仕えた女房で、女流歌人。荒れのみまさる」は伊勢が詠んだ長歌の一節。
人物関係図
問一
二重傍線の語句の、本文中における意味として最も適当なものを、次の各群のうちからそれぞれ一つずつ選び、符号で答えよ。
3
例ならず」
  • 並はずれて喜び
  • 意外なことに
  • ごろとは異なり
  • 体調はすぐれないものの
  • たいそう苦労して
3
はづかしげなりし」
  • みっともなかった
  • 慎み深かった
  • かわいらしかった
  • 立派であった
  • しとやかであった
3
ただにおはしまいしをり」
  • 直接お会いになった機会に
  • ちょうど出家しなさった頃に
  • 元気でいらっしゃった時に
  • ひたすらお仕えしていた頃に
  • 平凡な方でいらっしゃった時に
問二
5
波線部(ⅰ)(Ⅴ)について、威子を敬意の対象としないものを一つ選び、符号で答えよ。
(Ⅳ)
問三
10
傍線をわかりやすく現代語訳せよ。
たいそう美しい御髪をすっかり切りそろえ申し上げてしまったので、威子がすっかり別人のようでいらっしゃるのも
問四
9
傍線をわかりやすく現代語訳せよ。
威子がお亡くなりになってしまったので、どうにも言いようがないほど悲しい。
問五
7
傍線とあるが、頼通の置かれた状況に即して言うならどういうことか。最も適当なものを、次のうちから一つ選び、符号で答えよ。
  • 仕事を理由に威子の死に立ち会わなかったせいで、今も良心のとがめを感じ続けているということ。
  • 今よみがえってくる威子との思い出がつのらせる悲しみを、なんとしても乗り越えたいということ。
  • 威子の死による悲しみがあまりにも深いため、今日もやるべき仕事が手につかないということ。
  • 落ち着いて考えられるようになった今、威子の死の悲しみは耐えがたいものになってきたということ。
  • 忙しさのあまり、威子の死の悲しみにひたることもできない今、いらだたしささえ感じるということ。
問六
傍線とあるが、この言葉は、きんしゆう』の和歌時しもあれ秋やは人の別るべきあるを見るだにこひしきものを」ぶのただみね)をふまえている。次の⑴⑵の問いに答えよ。
4
この和歌は何句切れか。最も適当なものを、次のうちから一つ選び、符号で答えよ。
  • 初句二句切れ
  • 二句切れ
  • 三句切れ
  • 二句四句切れ
  • 句切れなし
6
本文でのこの和歌の引用について説明したものとして最も適当なものを、次のうちから一つ選び、符号で答えよ。
  • 古来、和歌の世界でももの悲しい季節であるとされてきた秋のさびしささえ忘れさせてしまうほどに、恋しく思う威子との別れを悼む人々の気持ちが強いものであるということを表している。
  • いとしい人がいてこそすばらしい季節となるという秋を目の前にして、あらためて威子がどれほどかけがえのない存在であったかを思い知った人々の悲しみを表している。
  • 大切な人が生きていてさえせつなく感じる秋の季節であるのに、人々から慕われていた威子の死によってそのせつなさがさらに切実なものに感じられていることを表している。
  • 古歌でも、飽きたからといって人と別れてはならない季節であるとされた秋にこの世を去った威子と、共に過ごす時間がもっとあればよかった、と人々が嘆く気持ちを表している。
  • 秋という、人の心にさびしさを感じさせる季節の到来が、しばらく忘れていた威子との死別の悲しみを再び思い起こさせ、人々をゆううつにさせているということを表している。
問七
10
二重傍線Aとあるが、この言葉に表れた女院彰子)の心情について、六十字以内でわかりやすく説明せよ。
【下書き用】
威子をはじめとする身内の人々の死を強く悲しむあまり、夫の後を追うかのように世を去った威子をうらやましく思っている。(57字)
解答解説 ページトップへ