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問題

  • 1

中断

レベル4

STEP5

古文

  • 30
  • 個別大試験対策
  • 記述

問題

古文
次の文章は、擬古物語あさが露』の一節である。中将は、初冬に外出した折、陣痛で苦しむ女性に出会い出産の手助けをしたが、その女性は男子を生んですぐに息絶えたので、中将は子どもを預かることになった。以下はその二か月後、中将が従兄いとこである中納言のやしきを訪れ、その子どもの話をする場面である。これを読んで、後の問いに答えよ。
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中将)あやしきことのはべるを、聞こえあはせんとて。この過ぎぬるころ、(注1)思ひかけぬ者の、たい乳母めのとのもとに、いとらうたきちごをうち捨てて侍りければ、(注2)かこつべきゆゑやあらんとて置きて侍ると聞きて侍るに、これなん母の形見とて添へたるものの侍るが、笛にて侍ると申ししを、あやしくてひと取り寄せて見Aさぶらしかば、見し心地のし侍る。まことや、もしさることもおぼし寄る」とのたまふに、あやしく、(注3)御心にかかる笛のことなれば、中納言)思ひ分くことは侍らねど、たづねまほしき笛になん侍る。かれを見候はばや。児はいくつばかりに侍るらん」とのたまふに、かんなづきばかりとかやぞ申し侍りし」いま、笛のしるしまことならば、B聞こえさせ侍らん。かへすがへすゆかしくなん」とのたまへば、たち返り参らすべきよしのたまひてたまひぬ。

心もとなく待ち給ふに、やがてたてまつり給へり。見給へば、まがふべくもなきそれなり。

まぎらはしたるしきの手習ひ、絵なんどの筆の流れ、墨つきまで、なべてにはありがたきさまなり。あやしき家ののきをぎあり、ゆふづくの空をながむる女房きたるところに、

へとしも思はぬ荻のうはかぜぞ事しもあればまづ答へける

夕暮れは蓬よもぎがもとのしらつゆたれ訪ふべしとまつ虫ぞ鳴く

また、悩ましげにてしたるところに、笛を手まさぐりにて臥しつつ、涙を払ひたるところに、

笛竹の憂きひとふしを形見にてこの世はながくぞ絶えける

(注4)古きも、かやうなる筋のみ、書きち書き消ちせられたり。

つくづくと見るに、涙は滝のおとのやうにこぼれ給ひけり。見はじめたりしに、夜を隔てんも苦しくおぼえしほどの形見にとどめし笛を、今日わが形見に見るべかりける。世にはあるかなきかをたづぬべきたよりもなし。児の生まれける月日も書きつけたり。十月十日とぞある。ありしかたたがへのころよりまがふべくもなし。

笛竹のひとふしをとどめずはわがこのともいかで知らまし

とぞ書き添へ給ふ。

暮れぬれば、やがて中将のもとにおはして対面し給ひて、まがふべくも侍らず。うちつけなる心地に、ゆかしくてなん、今日を過ぐさずC参り侍る」と聞こえ給へば、ゆく知らぬことなん侍れば。いとらいならん」とて、いだき出だし給へる、乳母のさまなんどゆゑなからず。とうだい近く居寄りて見給へば、れたるやうにて、わが御鏡の影にもまがふべくもあらず見え給ふあはれ浅からずながら、とぶらふこともなくて侍りしを、我も恨むることもやありけん、行方も知らずなりしを、月ごろ、いづくにあるらんとばかりたづねまほしく侍りつれど、かかるしのぶ草の種取るべしとは思ひ寄らず侍りけるに、契り浅からずも、今こそ思ひ知ら侍れ」とのたまへど、御涙はこぼれぬるを、浅からざりけると見給へば、ことわりに、あはれなりし人の気色ぞかし、よその我さへ忘れがたくおぼえ給へば、この児見つけたりしこともありのままにはくだくだしければ、ひき直しつつ聞こえ給ふ。中納言)行方なくさそらへぬべかりけるものを。とどめさせ給ひける御契り、同じことに思しはごくませ給へ。このほど、さりぬべからん日暮れに、渡し侍らん」とのたまふに、生まれD給ひしほどの有様をも、思ひかけず見しことなんどは聞こえ給はず。

注) 1思ひかけぬ者の、大夫の乳母のもとに、いとらうたき児をうち捨てて侍りければ ── 息絶えた女性の侍女たちが、中将家の乳母に、女性の子どもを預けたことを指す。 2かこつべきゆゑやあらん ── 頼りとするはずの事情があるのだろうか。 3御心にかかる笛 ── 中納言が恋人に預けていた笛のこと。恋人は半年ほど前から行方がわからなくなっている。 4古きも ── 古歌も。女性自身が詠んだ歌以外に、古人の詠んだ歌も書いてあったのである。
問一
二重傍線の解釈として最も適当なものを、次の各群のうちからそれぞれ一つずつ選び、符号で答えよ。
3
かへすがへすゆかしくなん
  • ぜひ見てもらいたいものです
  • 本当に見とうございます
  • まことに奥ゆかしいことです
  • なるほど聞いた通りでしょう
  • 折り返し知らせて下さい
3
なべてにはありがたきさまなり
  • 何もかも大して風情が感じられない様子である
  • 並べてはおけないほどすばらしいありさまである
  • なぜかありがたくなる気持ちのする様子である
  • 普通ではめったにないほどすばらしい様子である
  • 幼児に持たせておくにはもったいないありさまである
3
見はじめたりしに
  • 笛のけいをはじめたばかりのころに
  • 夕月夜の空を眺めていたけれども
  • 描かれた絵や歌を見はじめたところ
  • 自分の子どもをはじめて見た時は
  • 蓬おうを持ちはじめていたころに
問二
2
2
2
2
波線部ADの敬語は、それぞれだれに対する敬意を表したものか。最も適当なものを、次のうちからそれぞれ一つずつ選び、符号で答えよ。ただし、同じ符号を二度以上使ってもよい。)
  • 中将
  • 中納言
  • 児の母
  • 大夫の乳母
A
B
C
D
問三
2
2
2
二重傍線の助動詞を、例)にならって文法的に説明せよ。

例)笛のことなれ断定の助動詞なり」の已然形

完了の助動詞「ぬ」の連用形
過去推量の助動詞「けむ(けん)」の連体形
自発の助動詞「る」の連用形
問四
7
傍線は、中将がどのようなことを約束したのか。わかりやすく説明せよ。
中納言のもとに子どもが持っていた笛を届けるつもりであること。
問五
9
傍線は、どのような様子を表現しているのか。五十字以内で説明せよ。
【下書き用】
待っていても誰も訪れて来ないはずだと、松虫の鳴き声を聞きながら寂しい思いで女性が泣いている様子。(48字)
問六
8
傍線は中納言が詠んだ和歌であるが、どのようなことを言っているのか。四十字以内で説明せよ。
【下書き用】
笛を残しておいたから、中将の言う子どもがわが子であるとわかったということ。(37字)
問七
7
傍線を、言葉を補ってわかりやすく現代語訳せよ。
子どもは、中納言の御鏡に映る顔にも間違うはずもないほどよく似ているように見えていらっしゃる。
問八
6
傍線しのぶ草の種取る」はどのようなことを言っているのか。最も適当なものを、次のうちから一つ選び、符号で答えよ。
  • 中納言を恨んだまま姿を消した恋人が、つらい気持ちを我慢することができないで、中将のもとに子どもを奪い取りに来るということ。
  • 中将には昔の恋人に対する愛情が今も変わらずに残っているから、探しても見つからなかった子どもを引き取ることができるということ。
  • 気にかけていながら行方の知れなくなったままの恋人を思い出させる子どもに、中納言は後になってから会うことになるということ。
  • 中将の恋人が息絶える前に残した笛と何枚かの絵を中将が届けて来たので、中納言は子どもと一緒に見ることになるということ。
  • 中納言が恋人を見つけられない悲しさを我慢できずにいる一方で、中将は生後間もない子どもを養育することになるということ。
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